井上ひさし『本の運命』を読む
僕は、井上ひさしの作品は未だ読んだことはなく、
中学のときの国語の資料集に載っていた、「丸メガネが印象的な作家さん」という印象でした。
しかしこの本は、大学時代にたまたま古本屋で手にして以来、今でもときどき読み返す本の1つです。
なぜ何度も読み返してしまうのか。
それは
膨大な読書量から得た知見や経験を、ユーモアを織り混ぜながら、やさしく語りかけてくれている
からです。本書からは著者の人柄も想像することができます。
それらの話の中で、本の読み方や子どもを本好きにするには、といった考えが丁寧に述べられています。
読書法に迷われている方も、一度この本を読んでみると参考になる部分があるのではないかと思います。
読むと「本が読みたくなる」本
井上ひさしは山形県東置賜郡小松町(現川西町)に生まれます。
父親や母親の影響もあり、本を読みたくてたまらない少年時代を過ごすのですが、当時町の図書館の蔵書はなんと96冊。
幼い頃から、手にすることのできる活字は貪るように読み込んでいた様子が語られています。
晩年に、故郷へ本を寄贈することが決まり、その本から生まれた図書館は
現在も「遅筆堂文庫」として、川西町立図書館と劇場も合わさった複合施設として存在しています。
僕はGoogleマップで外観をみることしかできませんが、いつか行くことができたらいいな、と思っています。
このような、「本に触れてほしい」、と心からの思いで作られた図書館が地域にあるなんて、とても羨ましいですね。
最終的に寄贈した本の数はなんと13万冊。
多いときで月に400〜500万円。その後も月に50万円ほど。本を購入しては読んでを繰り返していたそうです。
そして本の重みで自宅の床が抜けてしまう。
96冊の図書館から、最終的に個人で13万冊の本を寄贈するまでになった究極の本好きが、
本の素晴らしさをさまざまな角度から優しく語りかけてくれます。
いかにしてこれほどまでの本を集めることができたのか、など本にまつわるエピソードも非常に面白い。
今の時代では考えられないような経験の数々は読んでいて「創作なのではないか?」と思ってしまうほどです。
それほどに本が大好きだった様子や、本をどのように読んでいったのか、そんな方法も語られます。
この本を読むと読書欲が高まってくるので、僕は今でもたまに読み返しています。
最近、僕もブログをはじめ、文章を書くことの面白さをあらためて実感することが増えてきました。
先日、
を読んだ感想をまとめたのですが、ここで語られていたことが、本書でも言葉を変えて語られてることに気がつきました。
それは
一次資料にあたることの大切さ
です。
僕たちは、小さい頃から夏休みの宿題で読書感想文や作文などというものを書いてきました。
しかし、このような「頭のなかのことばかり」で書く文章はとてつもなく難しいと本書で指摘されています。
結果「昨日、遠足に行きました。楽しかったです」というような文章ばかりができてしまう。
ブログなどを書くときも、ついつい頭の中のことばかりで書こうとしてしまいがちですが、やはりそれでは難しい。
かといって、ネットに転がっている情報を集めただけではただの孫引きの記事になるだけです。
では、井上ひさしはどのように文章を学び、書いていったのか。答えは13万冊の蔵書に示されているように、
徹底的な一次資料の収集
でした。
エピソードとして、『腹鼓記』を書くにあたり、神田の神保町から狐と狸に関する資料を片っ端から集めた話があります。
神保町から、狐と狸に関する本が全部消えてしまったほどの収集力。
その膨大な資料は、のちにスタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』にも活用されたという逸話が語られています。
今よりもはるかにアナログな時代に、徹底的に一次資料を調べ、創作に努めた様子は、
文章はこうやって書くんだよ
と教えてくれているような気がします。
おなじく、本書の中では司馬遼太郎のケタ違いの資料収集と読書量を実際に目撃した様子も語られています。
今でこそ、ネットから簡単に情報が手に入る時代になりました。しかし、それは結局
どこかの一次資料から誰かが生み出したもの
です。
まだ誰も書いていない、オリジナルな文章というものは結局こういうところから生まれてくるんだ
ということが、本書を読んでいるとヒシヒシと伝わってきます。
「文章を書きたい」と思っている人にもおすすめできる一冊です^^
本を読むことがどうして大切なのか
本書の中では、実際に井上ひさしが本を読むときに心がけていたことが「十箇条」として語られています。
独特な部分もありますが、どうやって読んだら良いのだろうと迷われている方は一度目を通してみてはいかがでしょうか。
なぜ本を読むことが大切なのか?
この問いに関しても、独自の考えを語られています。
そして、子どもを本好きにするために、僕たちが意識しておかなければならないこととはなにか。
という部分にまで話は進んでいきます。
文化庁が「国語に関する世論調査」というものを毎年実施しています。
調査内容は毎年少しずつ変わりますが、最近では平成30年度に「読書について」の調査がありました。
漫画や雑誌を除き、1ヶ月に何冊の本を読むか?
の問いに対し、
およそ半数にあたる47.3%の人は、月に1冊も本を読まないという結果が示されています。
1〜2冊程度と答えた人を合わせると、80%を超えてしまいます。
そして、この数字は10年前からほとんど変わっていないこともわかります。
普段少しでも本を読む人の、読書量の変化についても、
以前に比べて減っていると答えた人の割合が67.3%となっています。
つまり、
日本人の半分は月に本をまったく読まないし、読む人も読書量は減ってきている
ということがわかります。
次の調査ではどのような結果になるのでしょうか。
今の時代はネットから流れてくるたくさんの情報を読む習慣があると考えると、一概にどうだとは言えません。
しかし、本書で語られる、どうして書物が大切なのか、という回答には「なるほどなぁ」と感じましたし
だから本を読むことって楽しいんだな、とあらためて考えるきっかけをくれた本でもあります。
今回は、井上ひさし『本の運命』をご紹介しました。
読書法が知りたい、文章の書き方を知りたい、読書ってなんで大切なの?
といったさまざまな疑問に対して、著者が実際のエピソードをもとに優しく教えてくれています。
簡単な文章で非常に読みやすいので、一度手に取ってみてはいかがでしょうか^^
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